第3講 Crisisにおけるリーダーの思考|危機管理とリーダーの状況判断
決心は作戦または会戦の指導に関する確乎たる信念に立脚し、純一鮮明にして一転の混濁暗影を含まず、しかも戦機に投ぜざるべからず。確乎たる信念に立脚せざる決心は力なく、しばし動揺を来して、統帥の秩序節調を乱し、純一鮮明を欠く決心は部下に徹底せず。(統帥参考)
「備えあれば憂いなし」という言葉があるが、危機管理の基本は、
最悪の事態を想定して、最悪のシナリオを作り、その予防措置を講じて最悪の事態を回避することである。
しかし全ての事態が「想定内」に収まり、危機管理マニュアルに則って実行、処理されていれば問題ないが、
想定外や人為的ミスなどによってトラブルが発生した場合、初動の対応を間違えるとCrisisに発展する可能性を秘めている。
また、危機発生直後は現地同様に本部も混乱し、情報も不十分であるがトップリーダーは速やかに決心し、
努力の指向と目標をラインとスタッフに示し集中して対処できる環境を作為しなければならない。
リーダーによる目的と目標の確立
指揮官は状況判断に基づき、適時決心を為さざるべからず。而して決心は戦機を明察し、周到なる思慮と迅速なる決断とを以て之を定べきものにして、常に任務を基礎とし・・・敵の不明等に依り躊躇すべきものにあらず。(作戦要務令)
存続を脅かすCrisis状態に陥った場合、リーダーは情報が錯綜する中、
すべての努力の指向を集中し迅速、的確な処理を行わなければならない。
そのためには、常に目的意識を持ち「何のために」「何から、何を守るか」をトップリーダー自身が深く自覚すると共に各級の職域リーダーに与えた目標を確実に認識させ、あらゆる状況が起きても毅然として対処、処理できる体制を確立しなくてはならない。
目的とは、ビジョンとして表される会社の将来像であり、
企業の社会に対する貢献など、成し遂げようとする事柄や会社存続の意義などである。
これに対して目標は目的を達成するための手段方法を言い、売上目標など具体的な数値で表される場合がある。
もし、目的が不明瞭な状態で目標が与えられた場合は、目標達成の売上げ事態が目的化し目標と目的の混同を招き、トップリーダーや職域リーダーが繰り出す危機対応策も解決に向けた道筋が大幅にズレ、解決に向けた最初の一手もズレた方向に向かい、その対策のため次の手を打たねばならず、すべてが後手後手に回り、Crisisをさらに深刻化させてしまう。
そのためのトップリーダーは、将来あるべき姿であるビジョンの目的を基礎として各級の職域リーダーに対して実行すべき「目標」を設定することが重要である。
この目標を達成するための手段、方法が具体的に確立していれば、
ハイテク犯罪やサイバーテロなど情報化社会特有の目に見えない脅威に対して、迅速、確実なCrisis対応が可能になる。
リーダーが発する命令
指揮官は決心に基づき適時適切なる命令を発する。命令は発令者の意思及び受令者の任務を明確適切に示し、且つ受令者の性質と識量とに適応せしむるを要す。(作戦要務令)
近年、民主的な経営方法と称して、部下の自主的裁量に任せて命令を出すのを避ける傾向がある。
しかし、組織を戦略的に目標に向けて集中的かつ効果的に動かすためには命令は必要不可欠である。
命令は、発令者の意図と受令者の任務を正確に示し、努力の指向を目標に集中させ、組織における行動の無駄を最小限に止めるものでなくてはならない。
従って、リーダーが命令を発令するにあたっては、受令者に任務を理解させるため、明確なビジョンと目標を常日頃から徹底しておく必要がある。また、発令に当たっては憶測を交えたり、一度に二つの達成目標を求めるような命令は、受令者を惑わすばかりか命令意図も不明確になり、新たなCrisisを生み出す危険性を含んでいる。
このため、命令は簡明で目標達成後の行動は発令者の腹案に止め、受令者全員のエネルギーを一つの目標に集中させなければならない。