時の勢いだけでなく、50年先100年先を見据えた問題意識を
時の勢いとは、本人も信じられないほどの力を発揮するものである。まさに、小池百合子東京都知事こそ時の勢いを得た時の人である。
勢いに乗った小池知事が何か問題を提起すれば、マスコミが取り上げる。テレビのワイドショーなどは視聴率UPの絶好のチャンスと、小池知事が提起した問題点や疑問点に対して、コメンテーターを呼んで様々な角度から検証し、是非を問うている。
確かに、小池知事が取り上げた、築地市場の豊洲移転問題や、100億、200億単位で、倍々ゲームで膨らむオリンピック競技会場の設営経費にメスを入れてくれたのは事実である。
事実、小池知事は、ボート競技施設を海の森予定地から宮城県登米市の長沼ボート会場に移す代替案を示し、長沼移設か、海の森続行か、はたまた海の森に仮設を作るかと言った選択肢を作り、納税者である我々にも分かりやすい形で提示してくれた。
しかし、我々は、不透明な建設予算の問題にかこつけて、大切なことを忘れていないだろうか。
それは、2020年東京オリンピック・パラリンピック誘致に際し、東日本大震災からの復興と世界からの支援に対する返礼を旗印に、コンパクトな会場計画、強固な都市基盤、政府による強固な支援、約45億ドル(約4000億円)の開催準備金があることを示して、マドリードやイスタンブールを退けたことを。
中でも最も強調したのが晴海埠頭周辺の選手村から8km圏内に37競技会場の大半を配置したコンパクトなオリンピックを売りにしたはずである。
長沼ボート会場は、東京・晴海の選手村から直線距離で350キロ以上離れ、晴海と同一条件の選手村やプレスセンターも作らなくてはならず、オリンピック会場の分散化以外の何物でもない。しかも、会場周辺の整備などに新たな経費も掛かる。これでは、コンパクトなオリンピックとは程遠い。
コンパクトな大会は、猪瀬知事の時代の約束であるから関係ない、時代は変わったでは、国際信用を無くす。なによりも「おもてなし」の言葉に恥じる。
小池知事もこの約束を念頭に、誘致の際のもう一つのテーマである東日本大震災からの復興を掲げて問題を解決しようとしているが、来日したIOCバッハ会長は冷ややかで、東日本大震災の復興競技は、当初から宮城県での開催が決まっているサッカー予選の他に、日本が種目エントリーを熱望した野球、ソフトボールの初戦を行うのが望ましいと、ボート会場移設の代替案には言及しなかった。
1964年の東京オリンピックの時は、50年後、100年後を見据えた都市計画と国際選手を育てることが、大きなメインテーマであった。事実、オリンピックというターニングポイントが無ければ現在の東京の都市機能はマヒし、国立競技場や日本武道館などで競い育まれた若者が、世界に羽ばたき、スポーツを通して平和国家日本をアピールできなかった。
時の人は、時の流れや勢いに埋没して周りが見えなくなり、時に隙が生まれ、政敵に揚げ足を取られる。
時の人である小池知事は日本が、オリンピック誘致の際に世界に発した約束を念頭に、50年先、100年先の東京を見据えた小池手腕を見せてもらいたい。