グローバル化の影の部分にメスを入れたトランプ
2017年1月20日に、ドナルド・トランプは45代米大統領に就任した。就任早々彼が矢継ぎ早に署名した大統領令は、米国内は無論、世界中を驚かせ困惑させている。
中でも世界中の注目を集めているのが、メキシコ国境の壁の建設、環太平洋経済連携協定( Trans-Pacific Partnership、略称TPP)からの離脱、そして中東・アフリカ7カ国(イラク、イラン、シリア、スーダン、リビア、イエメン、ソマリア)からの渡航者に対する入国禁止令である。
大統領令は、アメリカ合衆国憲法2章1条1項の、「執行権はアメリカ大統領に属する」との内容を根拠に、議会の承認を得なくても法律と同等の拘束力を持つ。
トランプが選挙公約を即時に実行した背景には、隠れトランプと呼ばれたグローバル化の影の部分で喘いでいる「持たざる人々」の支持に応える意味があった。
彼らの望みは、グローバル化中でG7(フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ 、日本、イタリア、カナダ)の国々が作り上げた国際秩序を変えることで、グローバル化の影の部分に光をあてることである。
そもそもグローバル化とは、生産の3要素であるヒト、モノ、カネが国家や地域の枠を越えて移動することで地球規模の経済交流を盛んにし、よりダイナミズムな経済活動が期待されていた。
実際にG7の国々は、グローバル化によって多くの富を手に入れた反面、グローバル化の影と言われる、所得格差の拡大、失業そして内戦によって押し寄せる難民や豊かさを求める移民、さらには近年ますます危険度を増しているテロの問題など、グローバル化の影の部分が大きな政治問題となってきた。
事実アメリカもグローバル化で一部の企業や大富豪と呼ばれる人々は、多くの富を得たが、その反動で所得格差はすさまじく、1%の富裕層がアメリカの金融資産の40%以上を持ち、下位50%のアメリカ人が持つ総資産の割合は、たったの2.5%と言う数字が出ている。
この数字が示すように、グローバル化により多くの富を得たアメリカは、「富の集中と失業、低賃金労働、移民とテロの問題」が深刻なアメリカ病として横たわっていた。トランプは病魔にメスを入れたのに過ぎない。
多くのメディアはトランプ政策を反グローバル主義と批判しているが、同様のことは昨年6月にイギリスのEU(欧州連合European Union、略称:EU)離脱選択でも起きている。イギリスがEU離脱を選択し、アメリカがトランプ政権に変わった今こそ、グローバル化の影の部分を我々は認識しなければならない。
今こそグローバル化(善)、反グローバル化(悪)との概念を捨て、グローバル化がもたらした、光と影の部分に鋭くメスを入れ、新たな価値観を創造して行かなければならない。
そのためには、今後起こりうる問題に対して、これまでの規定概念に囚われることなく、斬新な発想をもって改革に望まなければならない。
トランプ大統領が署名した大統領令の多くは、選挙期間中または就任前に公にした政策を就任後、即座に実行したに過ぎない。